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ストックオプション

ストックオプション
こんにちは。弁護士の池田です。

新株予約権(有償ストック・オプション及び税制適格ストック・オプション)の
発行に関するお知らせ

I 新株予約権の募集の目的及び理由
中長期的な業績拡大及び企業価値の増大を目指すにあたり、当社グループの結束力をさらに高め、連結業績に対する意欲や士気をより一層高めることを目的として、当社及び当社子会社の取締役に対しては有償ストック・オプション(以下「2020年第1回新株予約権」といいます。)、当社及び当社子会社の従業員に対しては無償にて税制適格ストック・オプション(以下「2020年第2回新株予約権」といいます。)を発行するものであります。
なお、2020年第1回新株予約権及び2020年第2回新株予約権がすべて行使された場合に交付される株式数は最大で7,300,000株となり、これは発行決議日現在の発行済株式総数の236,ストックオプション 556,393株に対し3.09%となります。また、2020年第1回新株予約権は、当社の業績についてあらかじめ定める基準を達成した場合にのみ行使可能とするもので、当社連結業績における過去3期間の金融サービス事業の税引前利益の水準を踏まえ、同事業の安定的な利益貢献と今後の成長性を加味して定めた基準となっております。かかる基準を達成することは、当社の企業価値・株主価値の向上を通じて既存株主の利益にも貢献できるものであり、本新株予約権の発行規模は合理的な範囲のものと考えております。

1. 新株予約権の数
33,000個
本新株予約権を行使することにより交付を受けることができる株式の総数は、当社普通株式3,ストックオプション 300,000株とし、下記3(1)により本新株予約権にかかる付与株式数が調整された場合は、調整後付与株式数に本新株予約権の数を乗じた数とする。
なお、上記の数は割当予定数であり、申込みがなされなかった場合等、割り当てる本新株予約権の数が減少したときは、割り当てる本新株予約権の総数をもって、発行する本新株予約権の数とする。

2. 新株予約権と引換えに払い込む金銭
本新株予約権1個当たりの発行価格は、5,500円とする。なお、当該発行価格は、2020年5月27日の東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の終値2,280円/株、株価変動性42.70%、配当利回り4.39%、無リスク利子率-0.144%や本新株予約権の発行要項に定められた条件(行使価額2,280円/株、満期までの期間4.26年、業績条件)に基づいて、第三者評価機関である株式会社プルータス・コンサルティングが、一般的なオプション価格算定モデルであるモンテカルロ・シミュレーションによって算出した本新株予約権の価値と同額である。

(1) 新株予約権の目的となる株式の種類及び数
本新株予約権1個当たりの目的となる株式の数(以下「付与株式数」という。)は、当社普通株式100株とする。
なお、付与株式数は、本新株予約権の割当日後、当社が株式分割(当社普通株式の無償割当てを含む。以下同じ。)又は株式併合を行う場合、次の算式により調整されるものとする。ただし、かかる調整は、本新株予約権のうち、当該時点で行使されていない新株予約権の目的となる株式の数についてのみ行われ、調整の結果生じる1株未満の端数については、これを切り捨てるものとする。
調整後付与株式数 = 調整前付与株式数 × 分割(又は併合)の比率
また、本新株予約権の割当日後、当社が合併、会社分割又は資本金の額の減少を行う場合その他これらの場合に準じ付与株式数の調整を必要とする場合には、合理的な範囲で、付与株式数は適切に調整されるものとする。

(2) 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又は算定方法
本新株予約権の行使に際して出資される財産の価額は、新株予約権を行使することにより交付を受けることができる株式1株当たりの払込金額(以下「行使価額」という。)に付与株式数を乗じた金額とする。
行使価額は、2020年5月27日の東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の終値と同額である2,280円とする。
なお、本新株予約権の割当日後、当社が株式分割又は株式併合を行う場合、次の算式により行使価額を調整し、調整による1円未満の端数は切り上げる。

新株予約権 (株式報酬型ストックオプション) の割当に関するお知らせ

④ 上記②にかかわらず、対象者が当社、当社子会社または当社関連会社の取締役、監査役または従業員等の地位を退任 (または退職) した場合 (対象者が同時にまたは連続して複数の地位にあるときには、すべての地位を退任 (ストックオプション または退職) した場合。以下同じ。) には、その退任 (または退職) 日が2024年6月30日以前のときには2024年7月1日より1年以内、その退任 (または退職) 日が2024年7月1日以降のときには当該退任 (または退職) 日より1年以内 (ただし、権利行使期間の末日までとする。) に限り、対象者は新株予約権の権利行使をすることができる。

(ウ) 当社、当社子会社または当社関連会社の競業の会社の役職員に就任または就職した場合 (当社の書面による承諾を事前に得た場合を除く。)

以下の①、②または③の議案につき当社株主総会で承認された場合 (当社株主総会の承認が不要な場合には当社取締役会決議がなされた場合) は、当社取締役会が別途定める日に、当社は無償で新株予約権を取得することができる。

当社が、合併 (当社が合併により消滅する場合に限る。)、吸収分割もしくは新設分割 (それぞれ当社が分割会社となる場合に限る。)、または株式交換もしくは株式移転 (ストックオプション それぞれ当社が完全子会社となる場合に限る。) (以上を総称して以下、「組織再編行為」という。) をする場合において、組織再編行為の効力発生日 (吸収合併につき吸収合併の効力発生日、新設合併につき新設合併設立会社の成立の日、吸収分割につき吸収分割の効力発生日、新設分割につき新設分割設立会社の成立の日、株式交換につき株式交換の効力発生日、及び株式移転につき株式移転設立完全親会社の成立の日をいう。) の直前において残存する新株予約権 (以下、「残存新株予約権」という。) を保有する新株予約権者に対し、それぞれの場合につき、会社法第236条第1項第8号のイからホまでに掲げる株式会社 (以下、「再編対象会社」という。) の新株予約権をそれぞれ交付することができる。再編対象会社の新株予約権を交付する場合においては、残存新株予約権は消滅し、再編対象会社は新株予約権を新たに発行するものとする。ただし、以下の条件に沿って再編対象会社の新株予約権を交付する旨を、吸収合併契約、新設合併契約、吸収分割契約、新設分割計画、株式交換契約または株式移転計画において定めることを条件とする。

日本基準オンライン基礎講座 ストック・オプション

ストック・オプションの理解に必要な関連用語を解説します。
ストック・オプションが付与された日を「付与日」といいます。
付与日に、対象者、行使価格、ストック・オプションの公正価値等が決定します。
「権利確定日」とは、ストック・オプションを行使する権利が確定した日をいいます。
「権利行使日」とは、ストック・オプションの権利が行使された日をいいます。
「失効」とは、ストック・オプションが付与されたものの、権利行使されないことが確定した日をいいます。
「付与日」から「権利確定日」までを対象勤務期間といい、権利確定日以降の権利行使できる期間を権利行使期間といいます。

ストック・オプションの仕組み

ここで、従業員等が、権利行使価格100で自社の株式を取得可能なストック・オプションを労働等の対価として無償で付与されたケースの、ストック・オプションの仕組みについて解説します。
例えば、将来の株価が権利確定日において50に下落し、権利行使日において150に上昇している場合を考えます。
株価50が権利行使価格100を下回る場合、従業員等は権利行使をしないことが可能です。
これにより、権利を行使して、株式を保有した場合に発生した50の損失が回避可能となります。
一方、株価150が権利行使価格100を上回る場合、従業員等は、権利行使価格100で取得した株式を、時価150で売却することが可能です。
これにより、50の利益を得ることが可能となります。

ストック・オプションの特徴

ストック・オプションには、以下の3つの特徴があります。 ストックオプション
まず、企業がストック・オプションを付与しても、自社の現金その他資産の形での財産の流出はありません。
次に、株価が上昇するほど得られる利益も大きくなるため、従業員の業績向上の意欲と士気を高めるインセンティブ効果があります。
そして、市場で売買される株式オプションとは異なり、勤務条件や業績達成に関する条件等、企業の事情を勘案した様々な制限や条件を付すことが可能です。

ストック・オプション会計の設例

3月決算のA社は、従業員100人に対して20X1年4月1日付で、付与日から権利確定日まで3年間勤務するという勤務条件のもと、行使価格100により1人1株を取得可能なストック・オプションを1個ずつ付与しました。
権利行使は20X5年3月31日まで可能です。
付与日のストック・オプション1個あたりの公正価値を100とします。
100人の従業員のうち10人は、20X4年3月期までに退職する可能性があり、権利の行使はできないと想定します。
この設例では、付与日は20X1年4月1日、権利確定日は20X4年3月31日、失効日は20X5年3月31日となります。
従業員による権利行使日は20X4年12月24日と仮定します。

対象勤務期間の会計処理

まず、対象勤務期間20X1年4月1日から20X4年3月31日までの、会計処理の概要を解説します。
ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上します。
付与日において、企業は従業員等から付与に対するサービスを取得していないため、仕訳なしとなります。
費用計上額に対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使または失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上します。
各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法、その他の合理的な方法に基づき、当期に発生したと認められる額となります。
付与日後から権利確定日の仕訳は、借方、株式報酬費用、貸方、新株予約権となります。

A社は、1個あたり公正価値100のストック・オプションを従業員100人に付与しましたが、10人は退職する見込みであるため、権利確定日に必要となるストック・オプションの公正価値は90個分となる予定です。
したがって、権利確定日までの株式報酬費用総額は90個×100で9,000になります。
ここでA社は、ストック・オプションの行使に関して、3年間の継続勤務条件のみ付しており、従業員からのサービスが時の経過により提供されると考えられるので、対象勤務期間を基礎とする方法で当該9,000の費用を按分することになります。
つまり、各会計期間の費用処理額は9,000÷36ヶ月×12ヶ月により3,000となります。
したがって、20X2年3月期の費用処理額は3,000、
20X3年3月期も、条件に変化がなければ、3,000を費用処理し累計6,000、
20X4年3月期も、条件に変化がなければ、3,000を費用処理し累計9,000となります。

20X4年3月期に実際の退職者は15人だったことが明らかになったとします。
この結果、権利が確定した従業員は85人となり、実際に必要なストック・オプションの数は85個となります。
したがって、20X4年3月期末において85個×100で8,500のストック・オプションの公正価値が確定します。
20X2年3月期と20X3年3月期で、それぞれ3,000の新株予約権を計上しているため、20X4年3月期では、それまでの費用計上累計額6,000と、公正価値の最終確定額8,500との差額の2,500の費用および新株予約権が計上されます。

権利行使期間の会計処理

続いて、権利行使期間の会計処理の概要を解説します。
従業員等により権利行使され、権利行使に対して新株発行により対応した場合、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替えます。
仕訳は借方、現金および新株予約権、貸方、資本金となります。
従業員等により権利行使されず、失効した場合は、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分を利益として計上します。
仕訳は借方、新株予約権、貸方、新株予約権戻入益となります。

権利行使期間において、権利行使がされた場合の会計処理を見ていきましょう。
従業員10人がストック・オプションを行使した場合、権利行使時に、従業員は株式取得の払い込みとして1,000を拠出します。
仕訳は借方、現金預金1,000、貸方、資本金1,000となります。

次に、権利不行使による失効時の会計処理を見ていきましょう。
20X4年3月末時点の実際の退職者は85人で、その後10人が権利行使をし、残りの従業員75人全員による権利不行使の結果、ストック・オプションが75個失効したとします。
この場合、新株予約権を失効時の利益として処理することとなり、仕訳は借方、新株予約権7,500、貸方、新株予約権戻入益7,500となります。

ストック・オプション会計の留意点

最後に、ストック・オプション会計の留意点について解説します。
まず、ストック・オプションは、その付与日において公正価値を決定する必要があります。
ストック・オプションの公正価値は、市場価格等を観察できないため、一般に広く受け入れられている算定技法に基づいて計算することが必要になります。
算定技法には、ブラック・ショールズモデルや二項モデル等がありますが、その計算過程が複雑であることから、一般に公正価値の算定を専門家に依頼するケースが多くなります。
次に、ストック・オプションの数に留意する必要があります。 ストックオプション
従業員等の退職等の理由により、付与日におけるストック・オプションの数が権利確定日までに変動することが一般的です。
そのため、適時の見直しが必要であり、権利確定日では、ストック・オプション数に基づく会計処理の修正が必要になります。
最後に、ストック・オプションの権利確定条件と費用計上時期との対応関係に留意が必要です。
例えば、A社の設例の様に権利確定条件が固定的な「勤務条件」のほかに、必ずしも固定的でない「業績条件」が含まれるケースがあります。
業績条件がある場合、実態に応じた合理的な方法により株式報酬費用を認識する必要があり、単純な期間按分が適切ではない可能性があります。

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ストックオプションの実務

こんにちは。弁護士の池田です。

1. ストックオプション付与の目的

2. 税制適格

(1) 税制適格の意味

(i)課税時期を遅らせることができる。

(ii)税率を下げる

(2) 税制適格の要件

(i)対象者

(ii)行使価額

(iii)行使期間

(iv)行使態様

3. M&A対応

(i)ストックオプションを行使して取得した株式を売却

(ii)ストックオプションのまま売却

(iii)ストックオプションを放棄し、会社から別途のインセンティブを付与

(iv)ストックオプションを放棄し、買収側から別途のインセンティブ(買収側のストックオプション等)を付与

4. その他

(1) 付与比率

(2) ストックオプションプール

(3) 発行可能株式総数

(4) 付与手続

ストックオプションは便利な制度であり、多くのベンチャー企業で利用されています。最近では信託型というストックオプションも登場し、今後もストックオプション全体の利用は拡大していくでしょう。 AZXで何度か行っているストックオプションセミナーでも多数の方に出席いただいており、ストックオプションへの関心の高さを強く感じます。 ストックオプションを上手く活用するベンチャー企業が増え、ベンチャー業界全体の発展につながれば素晴らしいことですし、このブログがその一助になれば幸いです。

ストックオプション付与時の新株予約権割当契約書の役割と注意点について解説

ストックオプション(SO:Stock Option)は、将来の株価の上昇を見込み、株式会社の取締役や従業員があらかじめ定められた一定の価格(権利行使価格)で自社株を購入できる権利のことです。自社が株式公開を果たした後、自社の株価が上昇した時にストックオプションを行使することによって、権利行使価格と株価との差の利益を得ることができます。つまり、取締役や従業員が頑張って自社を上場させ、取締役等がさらに頑張って自社の業績を上げ株価が上げることで、取締役等は株価と権利行使価格との差額を利益として得ることができるという点で、スタートアップ企業やベンチャー企業の業績連動型のインセンティブ制度として導入されることが多いです。
ストックオプションは米国で誕生し、1960年以降広く普及しました。日本では1997年の商法改正により導入が可能となり、その後の法整備により徐々に導入する企業が増えてきました。

2.非公開会社におけるストックオプションの発行手続

ストックオプションは日本の法制度では会社法上の新株予約権の一種として発行されます。新株予約権の発行手続では、原則として、募集事項の決定と通知後に新株予約権の申込みと割当てという手続きが必要とされています。しかし、ストックオプションの場合は付与対象者が予め決まっている場合が多く、申込みと割当ての手続きを省略できる総数引受方式による手続が行われることが多いです。もっとも、この場合でも、発行するストックオプションに譲渡制限が付されている場合は、発行会社は株主総会により、総数引受契約の承認を得る必要があります。
加えて、取締役等の役員に対してストックオプションを発行する場合は、原則的に職務執行の対価となるため、報酬決議として株主総会決議(会社法361条1項)が別途必要となる点には注意が必要です。

3.税制適格の要件を充たすためにも大切

ストックオプションは柔軟に設計することができますが、税制優遇措置を受けるためには租税特別措置法で定められた税制適格の要件を満たす必要があります。税制適格の要件を満たすか否かによって、税金がかかるタイミングや税率に以下のような差が生じます。

ストックオプション ストックオプション ストックオプション
税金がかかるタイミング 税率
税制適格 株式売却(譲渡)時のみ 譲渡所得課税(20%)
税制非適格 二度課税される
・権利行使時
・株式売却(譲渡)時
・権利行使時:給与所得課税
最高で55%(住民税含む)
・株式売却時:譲渡所得課税(20%)

上記を簡単に説明します。ストックオプションは、株式を売却して利益を得るまでの流れとして①ストックオプション付与②ストックオプション行使(株式取得)③取得した株式売却、という順序をたどります。
取締役や従業員に対するストックオプションの付与(①)は、無償で行われるため、この時点では課税関係は発生しません(有償で発行されるケースもあり)。
ストックオプションの行使(②)により、行使者である取締役等は、自社の株式を取得します。もっとも、この時点では行使者である取締役等は、単に株式を取得したにすぎず、金銭を得ていないのです。にもかかわらず、税制非適格ストックオプションだと、ストックオプションの行使時、つまり株式の取得時において課税されてしまいます。しかも、給与所得として累進課税の対象となるため、報酬が高い取締役が税制非適格ストックオプションを行使した場合、最高で50%を超える税率(所得税と住民税)が課されることとなってしまいます。対して、税制適格ストックオプションであれば、ストックオプションの行使(②)時点では課税されず、具体的な金銭の取得がある株式売却時(③)で初めて課税されることになります。しかも、税制適格ストックオプションは、利益全額につき譲渡所得課税(給与所得課税より税率が低くなるケースがある)されるため、この点でも取締役等の税負担を減らすことができます。

このように税制適格の要件を満たすか否かによって大きな差が生じます。そのため、新株予約権割当契約書に税制適格の要件を満たすための規定を設けることが大切です。税制適格ストックオプションを発行するには、租税特別措置法等の関係法令の要件を満たす必要があります。したがって、税制適格ストックオプションを発行したい場合は、税理士や弁護士等の専門家の関与が必須です。

新株予約権割当契約書(付与契約書)の項目と留意点

1.行使期間

会社法上、ストックオプションとしての新株予約権の行使期間の制限はありません。付与後にすぐに行使できる設計にすることも可能です。
もっとも、租税特別措置法上、税制適格の要件を充たすためには、ストックオプションの付与決議日から起算して2年~10年の8年間の期間に行う必要があります。したがって、税制適格ストックオプションとして発行するには、ストックオプションの内容及び新株予約権割当契約書において、権利行使期間として「付与決議日後、2年を経過してから10年経過日までの間」であることを明記する必要があります。

2.ベスティング

ストックオプションには、優秀な人材を長期的に確保するという目的もあります。権利行使期間になりストックオプションを行使できるタイミングにおいて、仮に従業員がそのすべてのストックオプションを行使できるとすれば、取得した株式をすべて売却して退職してしまうかもしれません。そうすると、せっかくストックオプションを発行してまで確保しようとした優秀な人材が権利行使により退職してしまい、ストックオプションの目的を十分に果たせないことになってしまいます。
そこで、権利行使期間であっても、付与されたストックオプションを一括して行使することはできないと定め、段階的にストックオプションを行使させることで、従業員の退職を防止することができます。例えば、権利行使期間の最初の1年間はストックオプションの20%までしか行使できない等、一定期間に行使可能な割合の上限を設けることができます。この制限をベスティングといいます。ベスティングは1年につき20%~25%程度を上限とし、4~5年経過後に100%行使可能とするのが一般的です。特にIPOを目指している非上場企業の場合は、権利行使条件を会社の株式上場とする場合が多いですが、ベスティングを定めてIPO直後のストックオプションの行使に制限をかけることにより、優秀な人材が一度に流出するというリスクを防止することができます。

3.権利喪失事由(消滅事由)

優秀な人材を長期的に確保することを目的としたストックオプションの場合、人材流出を防ぐためにも、退職すると権利行使ができないという条件を付けることが大切です。新株予約権割当契約書にも、権利喪失事由(消滅事由)として、退職によりストックオプションを喪失する旨を明記しておく必要があります。

4.譲渡制限

ストックオプションは新株予約権という性質上、原則として株式と同様に原則として第三者への譲渡が可能です。しかし、税制適格の要件を充たすためには他人への譲渡を禁止する必要があります。税制適格ストックオプションを発行する場合、新株予約権割当契約書にも譲渡制限の規定を設けて、第三者への譲渡を禁止する旨を明記する必要があります。

5.行使要件

前述のように、IPOを目指している非上場企業は、新株予約権割当契約書に行使要件として「上場するまで行使不可」と記載しているケースが多いです。もっとも、IPOではなくM&Aによって自社が大手企業の傘下に入る場合、付与を受けた従業員等がストックオプションを行使できない可能性があるため注意が必要です。IPOによるエグジットを目指すスタートアップ企業やベンチャー企業は多いですが、最近はIPOではなくM&Aによるエグジットを選択する企業も増えています。また、現時点ではIPOを目指していたとしても、将来、M&Aによる事業拡大戦略を実施する可能性もあります。したがって、IPOの場合のみならず、M&Aの際にも従業員が利益を得られるように、柔軟性を持たせたストックオプションの設計にすることが望ましいでしょう。従業員のインセンティブを確保する具体的な方法として、ストックオプションを行使して取得した株式をM&Aの相手方に売却できるとする方法、ストックオプションそれ自体をM&Aの相手方に売却できるとする方法、M&Aの相手方のストックオプションを付与してもらう方法などがあります。

契約者の種類と留意点

資金力に限界があるスタートアップ企業やベンチャー企業では、少数精鋭で事業を軌道に乗せる必要があります。そのため、企業の経営に深く関与する取締役に、優秀な人材を確保するためのストックオプション戦略は非常に重要です。日本のスタートアップ業界の成功事例として注目されているメルカリでは、会社の経営を担う役員に大量のストックオプションを付与していたそうです。
ただし、上場を目指すスタートアップ企業やベンチャー企業の場合、資本政策上、ストックオプションの発行は、上場時の発行済株式数の10%以内を目安にするのが望ましいと言われています。これは、ストックオプションが行使されると原則として新株が発行されることから、他の株主の議決権の希薄化が起こってしまうためです。また、権利行使価格は株価(時価)よりも低く設定されていることがほとんどなので、権利行使されると企業価値や株価に影響がでてしまうことも理由の一つです。
COO(最高執行責任者)、CFO(最高財務責任者)、CTO(最高技術責任者)などの重要なポジションの人材を取締役として迎える際、ストックオプションを要求されるケースも珍しくはありません。これらのポジションの人材を今後採用する予定がある場合は、ストックオプションの比率が高くなりすぎないよう計画的に進めることが大切です。

一般の従業員に対してストックオプションを付与する場合、従業員間で不公平感が生じないよう配慮する必要があります。公平性を保つために付与基準を明確に示すことが望ましいでしょう。 ストックオプション
また、従業員が退職後にストックオプションの権利を主張してトラブルになるケースもあります。トラブルを防ぐためには、前述のとおり、新株予約権割当契約書に権利喪失事由(消滅事由)として、退職により新株予約権を喪失する旨を明記し、契約書を締結する際にも説明しておくことが大切です。

3.外部協力者

日本では、2001年の商法改正により、弁護士、税理士、公認会計士、技術者などの社外の専門家にもストックオプションを付与できるようになりました。また、2019年7月16日に施行された「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律」により、社外の専門家も税制適格ストックオプションの適用対象となりました。ただし、社外の専門家が無条件で税制適格の対象となるわけではなく、厳格な要件があります。将来的なトラブルを防ぐためにも、社外の専門家にストックオプションを付与する際は必ず事前に税制適格要件を充たすかを確認し、税理士や弁護士などの専門家に相談することが大切です。

信託型ストックオプションの場合の契約書

また、信託型ストックオプションは、発行時に付与者が決まっていないため、発行時に付与者との間で新株予約権割当契約書を締結する必要はありません。信託型ストックオプションの基本的な流れは以下のとおりとなります。

  1. 委託者(企業側)と受託者(信託銀行等の信託先)との間で信託契約を締結します。
  2. 信託契約に基づき、委託者から受託者に信託財産を移転します。
  3. 信託期間満了時までの間、受託者は信託契約に従って財産を管理します。
    この間、従業員や役員には、実績や貢献度に応じて、将来ストックオプションと交換ができるポイントが付与されます。
  4. 信託期間満了時に所持しているポイントに基づいて従業員や役員にストックオプションが配分されます。

契約書の雛形を利用する際の注意点

ストックオプションを付与する際に必要な契約書の雛形(テンプレート)やサンプルをネット上で探して流用したいという方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、「ストックオプション 契約書 雛形」などのキーワードで検索すると、無料で利用できる新株予約権割当契約書の雛形が見つかります。しかし、ネット上で公開されている契約書は税制適格の要件を充たす内容になっているとは限らないため注意が必要です。前述した通り、税制適格の要件を満たすか否かで、税金がかかるタイミングや税率に大きな差が生じるので、無償ストックオプションの場合は必ず税制適格の要件を充たす内容であるか否かを確認しましょう。
また、雛形を流用する際は自社の目的に合わせて必要な条項を加える必要があります。例えば、上場を目指す企業の場合、優秀な人材が上場後に株式を全部売却して退職するというリスクを回避するために前述のベスティングの条項を設けることが大切です。ストックオプションを導入する目的は企業ごとに異なり、留意するべきポイントも当然異なりますので、雛形を流用する際は十分に内容を確認しましょう。

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